移住

感謝して受け取る。

トイレに入ったら、窓の外から声をかけられた。
窓の向こうは家の裏手で、近所に住むマサさんの畑が広がっている。
窓を開けてみるとアキさん(仮名)が畑仕事の真っ最中で、
「野菜をあげるから出ておいでー」と言う。
トイレはひとまず置いて、いそいそと玄関から裏へと向かった。

「あんたが出てこらんから、なかなか野菜があげられん」
アキさんは笑いながら、畑から立派な大根を抜く。
寒くなってからすっかり引きこもり気味の私を、
気にかけてくれていたらしい。
「1本でいいかえ?2本持っていくかえ?」
と聞かれたので、立派な菜っぱのついたままの大根を1本だけいただいた。
と思いきや、結局白菜2玉、サンチェ5束にかぼすもごろごろと分けてもらって、
その代わりにちょうど焼いたばかりだったスコーンをお渡しした。

アキさんだけではなく、集落の方々にはいろいろといただいている。
タチウオ、お米、お餅。そして採れたての野菜。
いつももらってばかりで、私からは大して返せていない。
区(自治会)にも入っていない。
草刈りもしてもらっている。

自分ではあまり意識していなかったけれども、
今までは感謝よりも「申し訳ない」という気持ちのほうが大きかったような気がする。
でもきっと本当はそんなに恐縮する必要はなくて、
ただひとつひとつに心から感謝して受け取ることが大切なのかもしれない。

「あんたが出てこらんから、なかなか野菜があげられん」
なんてあたたかい言葉だろう。
思い出すと口元がほころんでしまう。